

川崎医科大学附属病院産婦人科では婦人科悪性疾患については産婦人科のみならず、放射線科、泌尿器科、外科、臨床腫瘍科、病理部などと連携して集学的治療を行っています。
子宮がんは、発生する場所で2種類に分けて診断・治療します。子宮頸部(子宮の入り口)にできる「子宮頸がん」と、子宮体部(子宮の奥)にできる「子宮体がん」です。子宮頸がんは、子宮の入り口にできる悪性腫瘍です。日本でも毎年約1万5千人が子宮頸がんと診断されて、このうち約3500人の貴い命が失われています。特に20~30歳代での罹患率が近年増加しており、この年代の女性では最も罹患率の高いがんといえます。近年、子宮頸がんは世界的に“予防できるがん”という認識が定着してきています。子宮頸がんの発症には性交渉でヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮の粘膜に感染して起きることが判明しました。またHPVが感染して突然発がんするのでなく、前がん病変(異形成~上皮内がん)の状態から時間をかけて浸潤がんになっていくので子宮頸がん検診によって早期発見可能です。早期発見できれば、ほぼ百パーセントの治癒が期待できるほか、子宮の温存も可能となります。子宮頸部に限局する浸潤がんでは広汎子宮全摘出術が適応になります。最近では症例を限定してではありますが、子宮体部を温存して治療後の妊娠が可能となる様な広汎子宮頸部摘出術も行われています。さらに子宮頸がん予防の新たな手段として、その発症原因であるHPVへの感染を防ぐ感染予防ワクチン接種があります。ワクチンの副作用のことがクローズアップされていますが、世界的には予防効果を期待して女性への接種が推奨されています。
子宮体部(子宮の奥)にできる「子宮体がん」は年間約8,200人が罹患し、約1,700人が死亡しています。女性は毎月、卵巣から周期的に分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の作用で、子宮体部の子宮内膜細胞が分裂・増殖・分化します。子宮体がんはこの子宮内膜細胞ががん化して発生するので「子宮内膜がん」ともいいます。子宮頸がんが20~40歳代の若年女性に発生するのに対して、子宮体がんは50~60歳代にピークがあります。子宮体がんは欧米先進国に多く、日本も食生活が欧米化するのに一致して年齢に関係なく増加してきています。危険因子として30歳以降の月経不順、閉経が遅い、出産歴がない、肥満などがあります。
最も普通にみられる子宮体がんの症状は不正性器出血です。特に閉経後の出血には注意が必要です。子宮体がんは増大すると子宮全体が腫大して子宮収縮を伴う腹痛も出現します。子宮体がんは子宮頸がんと同様に子宮がん検診で早期発見するように婦人科医師は努力していますが、子宮頸がんよりも子宮体がんの検査は痛みを伴い、時には子宮内膜炎を発生する時もあるので、症状もない一般女性すべてを対象に検診して子宮体がん検査(子宮内膜細胞診や子宮内膜組織診)をするのはあまり得策ではありません。子宮体がんになりやすい薬を内服していたり、不正出血や痛みの症状がある女性や、婦人科一般検診の経腟(ちつ)超音波検査で子宮内膜の異常があれば、子宮体がん検査が必要です。
子宮体がんの治療法は原則として単純子宮全摘出術と両側附属器(卵巣と卵管)摘出術が必要ですが、若年で未婚で妊娠・出産を希望する女性が子宮体がんになった時には、良く分化したがんが子宮内膜に限局している場合に限って黄体ホルモン治療で軽快することがあるので、子宮を摘出を遅らせて出産後に手術治療する場合もあります。
卵巣は子宮の両脇に一つずつある拇指頭大のソラマメ形で白色の臓器です。女性の生涯で卵巣がんが発生する頻度は、米国1.4%に対して日本では0.45%です。罹患数は日本では毎年約9千人で、死亡数は毎年約4500人以上います。年齢別に見た罹患率は40歳代から増加し、50歳代前半でピークを迎え、80歳以上でまた増加します。卵巣には数多くの種類の腫瘍が発生します。卵巣は表層上皮、胚細胞、性索間質性細胞(性ホルモンを分泌する細胞)とこれらの組織の間にある間質細胞からできていますが、これらの全ての部分から腫瘍が発生するためです。最も多いのは、卵巣の表層を覆う細胞に由来する上皮性腫瘍で、この中には良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)の他に良性、悪性の中間的な性質をもつ腫瘍(境界悪性腫瘍)があります。また、卵巣には胃がん、大腸がんからの転移もしばしば起こります。卵巣がんの発生には、複数の要因が関与していると考えられています。リスク要因の一つは、卵巣がんの家族歴とされています。他のリスク要因として出産歴がないことが指摘されています。婦人科疾患ではチョコレート嚢胞(子宮内膜症)、骨盤内炎症性疾患、多嚢胞性卵巣症候群がリスク要因です。反対に経口避妊薬(ピル)の使用は、卵巣がんのリスクを低下させます。1年服用で10%減少、5年以上服用で50%減少、8年以上服用すると75%も減少します。卵巣は、骨盤内に存在しているため症状が出るのが遅く、初期にはほとんど自覚症状がありません。腹部膨満(おなかが張る)、腹痛、胃腸障害、頻尿、体重減少などが多い症状ですが、これらは他の病気でもしばしば見られるもので、卵巣がんに特異的な症状ではありません。原因のはっきりしない腹部膨満や腹痛などの症状を見たとき婦人科で経腟超音波検査を受けることは卵巣がんの早期発見につながる可能性があります。卵巣がんに最もよく起こる転移は腹膜播種で、がん性腹膜炎ともいいます。診察で腫瘍が疑われる場合は、経腟超音波、CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像装置)などの画像診断によって、腫瘍の内部の構造、転移の有無などを詳しく調べます。血液中に微量に存在する腫瘍マーカーのCA125を測定することは、良性、悪性の判定に役立ちます。がん性腹膜炎になった卵巣がんではほとんどの人がCA125陽性で、多くは非常に高い値になります。
転移のない卵巣がんは手術だけで治りますが、転移した状態で初めて治療を受ける場合は、手術だけで全てのがんを取り除くことはできません。残された腫瘍に対しては、手術後に抗がん剤による治療が行われ、再度手術で残存腫瘍を摘出することもあります。