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⑤婦人科内分泌・生殖医療、女性医学

女性の性周期にまつわる様々な症状に対して川崎医科大学附属病院産婦人科では症状・年齢・挙児希望等に合わせた一人一人に最適な治療法を選択する様にしております。

【不妊症】(詳しくはこちら詳しくはこちら

本邦では避妊をせずに性交渉をしているにも関わらず2年以上妊娠に至らない場合を不妊症と言います。米国では1年以上妊娠に至らない場合を不妊症としており、女性の年齢にもよりますが、半年から1年で妊娠しなければ治療を考えても良いと思われます。結婚年齢の高齢化、若年女性の喫煙、性感染症の広がり、女性のやせ志向などが影響して不妊症は増加していると考えられています。
不妊症の原因は、大きく男性側(精子)と女性側に分けられ、さらに女性側では排卵因子、卵管因子、子宮因子、頸管因子に分けられます。かつては、不妊症の原因の多くが女性側にあると言われていましたが、現在では男女別の原因はほぼ同程度であると考えられています。不妊症の治療を行うにあたっては不妊原因を特定することが重要です。男性側の検査として精液検査を行います。女性側の原因が多岐にわたるので産婦人科受診後2~3カ月かけて原因を検索していきます。排卵因子の検査として基礎体温、ホルモン検査、超音波検査による卵胞発育測定などを行います。基礎体温は、起床時に口腔内の体温を測定するもので排卵に伴って基礎体温が上昇することによって排卵の有無さらには妊娠の診断を行うことができ、必須の検査と言えます。卵管因子の検査として子宮卵管造影検査、通気検査、クラミジア検査などを行い、必要に応じて腹腔鏡検査を行うこともあります。子宮因子の検査として子宮卵管造影検査、子宮鏡検査などを行い、頸管因子の検査として頸管粘液検査やフーナー検査(性交後検査)を行います。フーナー検査は、性交渉後の精子が子宮頸管内で元気に動いていることを確認する検査です。
不妊原因が見いだされると治療を行います。不妊治療には原因そのものを治療する方法と不妊の原因を飛び越えて治療する方法があります。排卵障害の場合、排卵誘発を行います。排卵誘発に際しては、過剰刺激による卵巣腫大や血液濃縮をきたす卵巣過剰刺激症候群の発生や多胎妊娠などの副作用に注意を払う必要があります。卵管因子の場合、腹腔鏡手術などで卵管の手術を行うこともありますが、最近では後で述べる体外受精―胚移植などの高度生殖補助医療(ART)を行うことも多いです。頸管因子の場合、排卵の時期に精子を子宮内に注入する人工授精を行います。男性因子の場合、泌尿器科での治療を行い、必要に応じて人工授精やARTを行います。いずれにしても、治療にとって排卵時期を知ることが重要で、超音波検査で卵胞の大きさや子宮内膜の厚みを測定したり、排卵検査薬を用いたりします。
ヒトでの体外受精―胚移植(IVF-ET)の最初の成功は1978年7月25日に世界初の体外受精児Loise Joy Brownが誕生したことです。2010年にはエドワーズ博士がIVF-ETの功績でノーベル賞を受賞しました。現在では不妊治療の主要な治療法として確立し、日本で出生した子どもの30人に1人はこの技術による妊娠となっています。川崎医科大学附属病院では現在人工授精までの治療を行っています。IVF-ETなどのARTが必要な方には連携施設をご紹介しています。

【不育症】(詳しくはこちら詳しくはこちら

妊娠は成立するものの流早産や死産が繰り返されて生児が得られない状態を不育症と言います。また連続 3 回以上の流産の繰り返しを習慣流産と定義しています。また反復流産(recurrent abortion)は連続 2 回の自然流産の繰り返しを定義しています。平成21年度厚生労働省研究班(不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究)「本邦における不育症患者の頻度調査」(杉浦ら)によると本邦における習慣流産の頻度は1.5%と報告されています習慣流産の原因として親の染色体異常に由来する染色体異常が胎児に認められ、それが原因で流産に至る場合があり最も多い異常は相互転座であり、次にロバートソン型転座で、その他、逆位,性染色体の数的異常やモザイクなどがあります。染色体異常が発見された場合には本邦では着床前診断を行うことも可能ですが、その有効性については否定する考えもあり、十分な遺伝相談が必要となります。内分泌的異常については黄体機能不全、プロラクチン分泌異常、甲状腺機能異常、糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群などが不育症の原因の一つと考えられています。
抗リン脂質抗体症候群(APS)は、リン脂質に関連する自己抗体によって起こる血液凝固異常と血栓症をきたす疾患で抗リン脂質抗体は妊娠初期に自然流産、妊娠中期・後期における子宮内胎児死亡の危険因子と考えられている。
治療としては原因を見つけ出して治療を講じることはもちろんですが、原因不明の習慣流産患者に対する治療として,tender loving careと呼ばれる十分なカウンセリングとケアを行うことで流産率を低下させることが報告されています。さらに重要なこととして夫単核球を用いた免疫療法や免疫グロブリン療法などの治療が試みられてきましたが、治療の限界とリスクを十分に理解した上で治療に当たる必要があります。

【月経随伴症状(月経痛・過多月経・月経不順など)】(詳しくはこちら詳しくはこちら

月経は10歳ごろから始まり(初経)、50歳ごろまで(閉経)の約40年間、女性の生活と切り離すことのできないものです。15歳以上になっても月経が来ない場合や43歳未満で自然に閉経を迎えたような場合には産婦人科を受診し詳しく調べて適切な治療を行う必要があります。女性は月経に伴ってさまざまな症状で苦痛を感じることがあります。代表的な症状として月経不順、過多月経、月経痛などがあります。これらの症状は年齢や妊娠・出産などによって症状が出現したり、改善したりすることがあります。女性ホルモンは、子宮以外にも骨、血管などのさまざまな臓器に影響を及ぼすので、ホルモン分泌の異常による月経の周期の異常では治療せずに放置することで将来の健康に大きく影響を及ぼすことがあります。
月経周期の異常は、思春期や40歳代の女性に多く見られることがあります。血液中のホルモン検査を行うとともに排卵の有無を確認します。妊娠の希望がある場合には不妊治療に準じて排卵誘発の治療を行いますが、妊娠の希望がない場合にはホルモン薬投与による治療を行います。月経時の出血が多い過多月経では、子宮筋腫などの器質的疾患がないかどうかを超音波検査で、貧血の有無を血液検査で調べます。過多月経の原因となる子宮筋腫などが見つかった場合はその治療を行います。月経時に腹痛や腰痛などの強い痛みがあり、日常生活に支障を来すことを、月経困難症と言います。月経困難症は月経にまつわる女性の不快な症状として最も頻度の多いものです。痛みが軽症の場合には鎮痛薬を投与して治療を行います。鎮痛薬の副作用を心配される方も多いですが、痛みを我慢して生活に支障を来すよりは積極的に痛みをコントロールするメリットの方が大きいと考えられます。痛みが重症な場合には子宮内膜症や子宮腺筋症などの病気の有無を調べる必要があります。疾患が見つかった場合には年齢・症状によって治療を選択します。
月経前になると「イライラする」「気分が沈んでしまう」「体調が悪くなる」というような症状は、多くの女性が経験していると言われています。このような、排卵から月経開始までの時期に現れる身体的(頭痛、腹痛、乳房緊満感など)・精神的不快な症状を月経前症候群(PMS)といいます。PMSの症状はさまざまで、排卵のある女性であれば誰にでも起こり得る症状です。症状の度合いも個人差が大きく、日常生活でさえも困難になってしまう人もいます。日常生活に支障を来す場合は、適切な治療が必要であるとされています。
月経にまつわる症状(月経不順、過多月経、月経困難症、月経前症候群など)に対する治療薬として最近では低用量ピルを積極的に用います。低用量ピルについては副作用を心配される方も多いですが、安全性は高く、過度に心配する必要はありません。月経周期を規則的にし、月経量を減少させ、月経時の痛みを半減させるなどの副効用があり、症状に悩む女性にとっては有効な選択肢です。

【避妊】(詳しくはこちら詳しくはこちら

10歳で月経が開始して50歳で閉経を迎えるとすると約40年間女性は妊娠の可能性があることになります。お二人出産されるとすると妊娠の準備期間・妊娠期間・授乳期間等は長く見積もっても5年間で、残りの35年間女性は避妊を考慮しなければならないことになります。一方、女性が望まない妊娠をした場合には人工妊娠中絶を選択する必要が生じます。人工妊娠中絶は女性にとって肉体的・精神的に大きな負担を強いることとなります。したがって、それぞれの方のライフスタイルや合併症に応じて低用量ピルや子宮内避妊具などの適切な避妊の方法を探る必要があります。また、性交渉の際にコンドームなどの避妊に失敗した場合や性犯罪に巻き込まれた様な場合には緊急避妊法として2011年5月24日よりノルレボ錠(0.75㎎)を「性交後72時間以内に1回1.5mg経口投与」することで70%程度妊娠を防止することが可能となっています。

【更年期障害】(詳しくはこちら詳しくはこちら

閉経を境とした前後約10年間を更年期と言います。卵巣では月経が始まって以降、排卵によって少しずつ卵母細胞が減少していきます。40歳を過ぎると急速に卵母細胞の減少が加速して、50歳前には卵母細胞は極めて少なくなり、この変化に同調して卵巣の働きも低下するため女性ホルモンの分泌が低下します。この卵巣での変化に呼応して月経周期の変調、無排卵、そして閉経が起こります。この女性ホルモンの不足に加えて閉経前後の時期には、子育て、親の介護など家庭でのストレス、あるいは職場などでの社会的ストレスも加わって更年期障害の症状が重症化します。更年期障害の症状は大きく二つに分けられます。一つは“顔面紅潮(ほてり)・発汗・動悸・冷え”などの自律神経失調症状で、もう一つは“不眠・いらいら”などの精神神経症状です。更年期障害の治療としてはストレスを軽減させることも重要で、運動やサークル活動など生活を変えることやカウンセリングあるいは夫や友人などのサポートにも更年期症状緩和の効果があります。薬物療法として女性ホルモン補充療法、漢方治療、抗不安薬などが用いられます。特に、不足している女性ホルモンを直接補うホルモン補充療法は治療効果も高く、有用な治療法です。ホルモン補充療法というと、どうしても副作用ばかりがクローズアップされがちですが、産婦人科医師と相談して子宮癌(がん)・乳癌検診や血液検査を定期的に受けることで副作用も予防して更年期障害の症状を軽減してゆとりある生活を送ることができます。ホルモン補充療法に用いる薬剤として最近では副作用軽減の目的で経口薬ではなく皮膚から吸収される薬剤が積極的に用いられています。乳癌や子宮体癌などの悪性腫瘍や血管の中で血液が固まる血栓症を患ったことがありホルモン補充療法を用いることができない方や、ホルモン補充に抵抗感のある方には、漢方薬や抗不安薬などを組み合わせて治療を行います。

【骨盤臓器脱・尿失禁】(詳しくはこちら詳しくはこちら

女性の骨盤の中には、膀胱、尿道、腟、子宮、直腸などがあり、これらをまとめて骨盤内臓器と呼びます。これら骨盤内臓器が下がってきて、腟を通って外に出てくることがあり、骨盤臓器脱と呼びます。骨盤臓器脱は女性であれば、誰でも起こり得る可能性があり、一般的な病気です。日本での正確な統計はありませんが、欧米では、分娩(ぶんべん)を経験した女性の約半数に骨盤内臓器の下垂が認められ、そのうち約1割が骨盤臓器脱や尿失禁のために治療を受けています。骨盤臓器脱の症状として「腟から何かが出ている」という脱出・下垂による症状と排尿・排便の障害があります。骨盤臓器脱の主な原因は、妊娠・分娩によって、子宮や膣壁を支持している組織が傷むことです。それに加え、加齢による支持組織の脆弱(ぜいじゃく)化や骨盤の底を支えている筋肉群の衰えも原因です。骨盤臓器脱は、命にかかわる病気ではないので、症状が軽ければ、経過観察も可能です。自覚症状があり、自分が治したいと思った場合、治療対象となります。
有効な治療は、ペッサリー療法と手術です。ペッサリー療法は、膣内にリング状のペッサリーを挿入し、脱出部位を出てこないように押さえ込みます。骨盤臓器脱に対する根治療法は手術です。しかし、すべてに対し百パーセント完璧な手術法はありません。脱出した部分を摘出して補強したり、脱出部を骨盤内の靭帯に固定したり、おなかの方に吊り上げる手術などがあります。どのような術式でも術後の再下垂、再脱出による再手術の可能性があり、再発率は20~50%と言われています。
近年、人工素材(メッシュなど)と手術手技の改良により、新たなメッシュ手術が行われるようになりました。現時点では、まだ長期成績は不明ですが、短期的には合併症や再発が少なく、今後、骨盤臓器脱に対する手術の主流になると期待されています。最も一般的なメッシュ手術は、TVM(tension free vaginal mesh)と呼ばれる術式です。
“自分の意思とは無関係に尿が漏れる状態”のことを尿失禁と言います。しかし、尿漏れがあったとしても、全例で治療が必要ではありません。社会的、衛生的に問題となる場合に治療を考えます。尿失禁の頻度は、出産経験者の4割といわれ、女性にとっては決してまれな病気ではありません。尿失禁は大きく二つのタイプに分かれます。腹圧性尿失禁は、咳やくしゃみなど、おなかに力がかかった時に尿が漏れるタイプです。このタイプの尿漏れは、尿道に問題がある場合に起こります。腹圧性尿失禁の一番の原因は、分娩(経腟分娩)です。その他に、便秘、肥満、力仕事などがあり、腹圧が上昇することに関係しています。腹圧性尿失禁の治療は、尿道を安定させることです。具体的には、骨盤底筋運動と手術です。軽症であれば、骨盤底筋運動でかなり改善が期待できます。しかし、効果が自覚できるのは、2~3カ月後です。重症であれば、手術の適応となり、テープを用いて尿道を支える手術を行います。切迫性尿失禁は、尿意を感じて我慢できず尿が漏れてしまうタイプです。これは、自分の意思に反して膀胱が収縮し、尿が保持できないために起こります。切迫性尿失禁の原因は、神経の調節の問題なので、基本は薬物療法です。

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