

婦人科良性疾患については川崎医科大学附属病院産婦人科では患者さんの症状、年齢等に応じて手術療法、薬物療法などを適切に選択する様にしています。手術を行う場合には婦人科腫瘍学教室が中心となって出来る限り低侵襲の内視鏡手術を基本にしています。
子宮は内側から子宮内膜、平滑筋という筋肉でできている子宮筋層、漿膜漿膜(腹膜)の3層構造になっています。子宮筋層にできる良性の腫瘍が子宮筋腫です。子宮筋腫は婦人科の腫瘍性疾患で最も高頻度で、30歳以上の女性では20~30%の方が有していて、顕微鏡レベルで見つかるものも含めると約75%にもなると言われています。子宮筋腫の発育には女性ホルモンが関与していて、初経前にみられることはなく、閉経後は縮小します。また、子宮筋腫は多発性に発生することが多いのも特徴です。症状は、月経量が増加する過多月経や月経痛、膀胱や直腸などの周辺臓器の圧迫症状があり、疼痛や不妊症、不育症の原因となることもあります。さらに、妊娠中の流・早産や分娩後の出血などの原因となることもあります。診断には内診や超音波検査が有用です。MRI(磁気共鳴画像装置)検査も子宮筋腫の部位、個数の確認等に有効です。急に子宮筋腫が増大した場合や閉経後に増大した場合には悪性の平滑筋肉腫との区別が必要となることがあります。
典型的な子宮筋腫で症状もない場合には3~6カ月ごとの定期的な診察で大きさや症状の変化を観察します。治療を必要とする子宮筋腫は、悪性の平滑筋肉腫の可能性が否定できない場合、症状がある場合(過多月経のために貧血、生活に支障をきたすような月経痛、不妊症や不育症の原因と考えられるなど)、妊娠中や分娩時に障害を引き起こす可能性が高い場合などが挙げられます。症状、年齢および挙児希望(子どもが欲しい)があるかどうかに応じて治療法を選択します。薬物療法として貧血改善のために鉄剤の補充を行う場合や、低用量ピルを用いて月経量の調節や月経痛の軽減を図ることもあります。GnRHアゴニスト療法とは、注射や点鼻薬を用いて女性ホルモンの分泌を抑えて閉経状態と同じホルモン状態にして、子宮筋腫の縮小を図る方法です。一時的には子宮筋腫の縮小が期待できますが、更年期症状や骨粗鬆症などの副作用のため6カ月間の投与に限られていて多くの場合、治療終了後には子宮筋腫が元の大きさに戻ってしまいます。このため手術前の治療や閉経前の方の逃げ込み療法(手術を回避して閉経まで逃げ込む治療)として用いられます。手術療法としては、根治療法として子宮摘出手術があります。挙児希望があり子宮温存を希望される方には子宮筋腫だけを切除して子宮を温存する子宮筋腫核出術を行いますが、手術後に子宮筋腫が再発する可能性があります。子宮筋腫の発生部位、大きさなどによって手術方法として開腹手術、膣式手術(おなかを開けないで下から手術する方法)、内視鏡(腹腔鏡)手術などの選択肢があるのでよく相談して手術法を決める必要があります。新たな治療法として子宮動脈塞栓術という治療法があります。これは、子宮を栄養する子宮動脈という血管を詰まらせて子宮筋腫の縮小を図る方法で約90%の有効性が示されています。
子宮内膜症とは、子宮内膜が本来存在する場所以外の場所に存在する疾患で、病巣は主に骨盤内になります。子宮内膜類似の組織が子宮体部筋層に存在するものを子宮腺筋症として子宮内膜症とは区別しています。女性ホルモン依存性の疾患で先進国では過去20~30年間に診断、治療を受ける率は増加してきています。本疾患の社会的関心の高まり、診断技術の普及なども増加の理由に挙げられていますが、生活様式や女性のライフスタイルの変化などにより実際の患者数も増加していると推定されています。子宮内膜症の頻度は5~10%程度で好発年齢は30~40歳代とされていますが、最近では若年者にも見られるようになってきています。子宮内膜症は、月経が規則的で未産婦に多く、分娩回数とともに頻度が減少するとされています。
子宮内膜症の症状は、痛み(月経痛、性交痛、排便痛、重症化すると慢性骨盤痛)、卵巣チョコレート嚢胞、不妊です。これらの症状の重複を伴うことも多いです。子宮内膜症の診断には内診、超音波検査、MRI(磁気共鳴画像装置)検査などを用いますが、診断を確定するには腹腔鏡検査が必要となります。
治療法は、個々の症状に合わせて対応する必要があり、症状が軽度の場合は、鎮痛薬で経過観察することもあります。症状が強い場合には薬物療法を行います。子宮内膜症の薬物療法は最近日本発の新しい治療法(ディナゲスト、低用量ピル(ルナベル、ヤーズ))が開発され、選択肢が広がっています。。症状が重症な場合、不妊の原因となっている場合、卵巣チョコレート嚢胞を認める場合には腹腔鏡手術や開腹手術などの手術が選択されます。卵巣チョコレート嚢胞は癌化(悪性化)することがあり、手術をする必要があるかどうかよく相談する必要があります。
子宮腺筋症は、子宮筋層内に子宮内膜様組織が存在し、女性ホルモンに反応して増殖する疾患で子宮内膜が筋層内に直接浸潤して発症するとされ、30歳代後半から40歳代の経産婦に多いとされています。症状は月経痛と過多月経で子宮内膜症と同様に内診、超音波検査、MRI検査などで診断します。治療は手術療法と子宮内膜症と同様の薬物療法があります。
女性の腹腔内は腟・子宮・卵管を介して外界と交通しており、感染を引き起こしやすい環境にあります。そのため腟内に侵入した性感染症の原因微生物の一部は上行性に波及し、子宮頚管炎、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎へと容易に進展します。女性の性感染症は、ご本人のみならず不妊・流早産・母子感染を引き起こし、次世代にわたる影響を及ぼすので性感染症の予防と適切な治療は非常に重要です。性感染症とは性行為あるいはその類似の行為により感染する疾患の総称であり、現在では20を超える疾患がその範疇に入っています。2000年に制定された「性感染症に関する特定感染症予防指針」では、性器クラミジア、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、淋菌感染症、梅毒の5疾患を性感染症としています。性器クラミジアが圧倒的に多く、次いで性器ヘルペスが続き、尖圭コンジローマおよび淋菌感染症はほぼ同数となっています。性器クラミジアは2003年から、淋菌感染症は2004年から減少傾向が認められており、性器ヘルペスおよび尖圭コンジローマに関してはほぼ横ばいです。年齢別報告では、20歳代前半にピークがあります。梅毒の年次推移では2004年より増加傾向が認められており、特に症状の無い無症候梅毒の増加が目立っています。無症状で医療機関を受診していない無症候性感染症は多く存在しており、性器クラミジアに関しては女性感染者の70~80%が無症候と言われており、また無症候のクラミジアや淋菌咽頭感染も存在し、自覚症状のないまま感染源となり、新たな感染者を増加させることとなっています。性交渉の際にコンドームを使用して感染予防を行わない限り、感染の可能性があり、性感染症の治療では、パートナーとの同時治療が原則であり、パートナーの治療を行わなければ、パートナーからの再感染により感染をくり返す(ピンポン感染)ことになります。
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